Heaven’s Place
「…。」
その日、華武高校3年屑桐無涯は本屋の前で固まっていた。
その目の前には、本日発売の札のついた雑誌が平積みにされていて。
表紙の写真にはこのような字がついていた。
「正体発覚記念!!HEAVEN総力特集」
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先日のこと。
屑桐の後輩、朱牡丹録が息せき切って持ってきた情報。
それは、最近知り合った敵校の1年生が世界的に有名なファッションモデルと同一人物であると言うものだった。
その情報に、野球部内は騒然とし。
その日は部活が始まるのが遅れ、監督に大目玉をくらった。
そしてその日以来大きく変化した事は。
普段話しかけてくることの少ない野球部以外のクラスメート達まで、先日の練習試合での「HEAVEN」こと猿野天国が
どのような人物であったかを屑桐や朱牡丹、他の野球部員たちにも聞きに来るのだ。
それに関していちいち丁寧に答えてやるような暇と余裕のある部員は華武校内にはおらず。
それ故に校内でもHEAVENの噂は尚更のように増大していくのであった。
そんな折のこと、屑桐は普段は見過ごす本屋で、その雑誌を見つけたのだ。
屑桐は、数分ためらいながらも。
あの日、HEAVENではない、猿野天国に惹かれた心が欲するままに
その雑誌を手に取ったのだった。
「…これは…。」
それは屑桐にとって初めて見る天国…「HEAVEN」の姿だった。
一枚一枚に、生き生きとした「HEAVEN」の魅力が溢れていた。
あの日に見たような、真っ直ぐに威圧する鋭い刃のような瞳とは違う。
全てを魅了し、引き寄せて離さないような強い引力は同じだったが。
ある一枚には包み込むような優しさがあり、
ある一枚には突き放すような厳しさがあって。
それぞれが、今まで気づかなかった天国の美しさを如実に現していた。
「あれ、アンタ屑桐さん?」
その時、後ろから彼の名を呼ぶ声が聞こえた。
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「お〜い、ユタにカイちゃん!見ろよこれこれ。
今月の特集!」
練習が終わっての帰り道。
村中兄弟の背中をばしっと勢いよく張ったのは村中兄弟と同じ黒撰高校の3年、小饂飩勇だった。
「何々〜?って、あ〜〜!!これって例のへぶん特集じゃん!
うっわ〜猿野きっれ〜〜!!」
小饂飩の手にしていた雑誌には、最近知り合った十二支高校1年、猿野天国…「HEAVEN」の姿が映っていた。
「これ由太郎。小饂飩も、公道でそのように騒ぐでない。」
黒撰高校野球部主将、村中魁は弟とチームメイトをいさめつつも、由太郎の見ている雑誌に視線を寄せた。
やはり美しい。
それが魁の素直な感想だった。
「しっかしこいつ、試合で会った時と全然ちがうよなあ。
あん時はマジピーな感じのピーしたくなる奴だったけどよ〜〜。
こういう顔みるとさ、どっちかっつーとピーな気分ってか?」
「・・・・・・。」
ばこっ
「ってー!!何すんだカイちゃん!!」
いきなり自分の頭を小突いてきた魁の顔を見ると、真っ赤に染まっていた。
「…おいユタ、カイちゃんてやっぱむっつりじゃねえ?」
「…同感〜〜。」
ひそひそと二人が面白がっていると。
前方を歩いていた緋慈華汰が口を挟んだ。
「全く君たちはもう少し端麗で美麗な言葉遣いというものを学習し習得してはどうかな?
そのような事を言っているから世界の華麗で流麗とも言うべき洗練された動線を見逃し
人生の後悔とも言うべき大いなる失墜であり落胆を味わうにふさわしく…。」
「だ〜〜っ!!論文にしたら一発で不可もらいそうなこと言ってんじゃねえよ!」
だらだらと修飾語を延ばしにのばす緋慈華汰の言葉に小饂飩はいつも通りぶちキレる。
だが、その時、魁一人が緋慈華汰の言葉に反応した。
「緋慈華汰!今何を見逃すと言った?」
「おや、魁くん、君は私の豊かで豊潤ともいうべき言葉を理解して…。」
「いいから早く言え。結論は?!」
そういいながらその怪力とも言うべき腕力に任せて友人に詰め寄る。
「い、いやだから…その「HEAVEN」がそこの本屋にいるのを見逃す…と。」
そこまで聞くと、魁は緋慈華汰をその場に置いて目の前の本屋に駆け寄って行った。
「マジ?!」
「それを早く言え!!」
そして、あと二人も全力で魁の後を追った。
「…私を置いてく気かい?!」
そのあとで緋慈華汰もよたよたとついていった事はいうまでもない。
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「…猿野。」
屑桐は非常に珍しく硬直していた。
まさかこんな所で猿野に、今雑誌で見ている、ここ数日自分の心の中を占めている猿野天国会うとは思わなかった。
「あ…それ、見たんすか…。」
天国は、屑桐の持っている雑誌を見て苦笑した。
勿論、自分の立場を知ったからといって目の前の人物が態度を変えるなどとは思ってはいない。
そういう意味では、非常に信用のおける人物であると、天国自身屑桐を評価していた。
天国の表情に、自分の知っている猿野を感じた屑桐は、緊張を溶かした。
「…ああ。
こういったものは初めて見るが…悪くないな。」
率直に感じたとおりほめる事はできなかったが。
「そうですか…。何か、こう面と向かって屑桐さんみたいなヒトに言われると照れますね。」
その言葉に、屑桐は少し引っかかりを感じて。
聞いた。
「オレのような…とは、どういう意味だ?」
その時。
「猿野。」
「さーるのーっ!」
「よっ!十二支のピー野郎v」
「やあ、端麗にして美麗なる愛しき天国におわす君。」
「え?え?」
天国は突然4人分の声をかけられ混乱した。
「貴様ら…黒撰の。」
こちらの質問の腰を折られて、屑桐は険しい表情になった。
「あ〜〜華武のきゃぷてんだ!!」
「うぉっ固さの極限ってなピッチャーくんじゃねえか。
お前も「HEAVEN」のファンだったわけ〜〜?」
「違う。オレは「HEAVEN」など知らなかった。」
知らなかったから、お前たちのように「HEAVEN」であることで注目したのではない。
言外にその意図を込めて、屑桐は答えていた。
その事に気づいていたのは、この場では魁だけだった。
その魁は、ちゃっかりと屑桐と天国の間に入り、天国の傍のスペースを確保していた。
「……。」
天国は魁を無言で見上げた。
今の状況がよく分からない。
魁が来た事は、まあ偶然であるのだろうが。
何故屑桐を敵対するような眼で見るのか。
確かに敵校の主将ではあるが…。
魁の性格上、試合でもないのにこのように敵愾心を丸出しにするなど考えられない。
「魁…?どうしたんだよ?」
天国は、魁だけに聞こえる声で言った。
「…なんでもない。」
魁はふと息を漏らして。
屑桐に言った。
「……そう簡単にはつかまらないぞ?」
「………そうだな。」
淡い思いは、もう一つの君を知った時はっきりとした形となった。
そして、君が地上でひそやかに咲く花ではなく天上を舞う鳥であることにも気づき。
届かない場所へ向ける思いは甘くて切なくて。
それでも思って。
思わずにはいられなくて。
だから思い続ける。
「「覚悟は、出来ているのだから。」」
いつか届かなかった場所にたどり着けるように。
end
な…難産でした…。
他校争奪戦ということでしたが、結局黒撰+屑桐で屑桐VS魁×猿…という感じですね。
コンセプトとしては「遠い場所にいることを知っても思わずにはいられない」みたいな感じですか。
明嬢とか七橋も出す予定だったのですが…。ホントにすみません!!
途中でワケがわからなくなりましたね…。
要 佳響5ヶ月近くもお待たせして、こんな結果で申し訳ないです…。
素敵リクエスト本当に有難うございました!!」
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